交通費と価格弾力性 〜ローカル線は、なぜ運賃が高いのか?

 利用者が少ないから。以上。
 

 正論で、正しいですが、経営学的に面白くないので、もう少し細かく別の見方を考えたいと思います。


【価格と消費量の関係】
 価格と消費量には密接な関係があります。
 価格が高いと消費量は減り、価格が下がると消費量が増えます。

 企業の売上=平均価格×販売量(消費量)
 です。


 価格を半分にしても、販売量が20%しか増えなければ売り上げは減少します。
 一方、3倍に増えれば売上増加です。


 では、価格が下げた場合、企業の売上は減るのでしょうか? 増えるのでしょうか?
 市場規模は大きくなるのでしょうか。それとも減るのでしょうか?


 それは、商品の性質や企業の競争関係、市場の成熟度により、大きく異なります。


【日常品・必需品の場合】
 日常品は、価格が高くなっても買う傾向の商品です。一方価格が安くなっても、消費は劇的に伸びません。


 そのため、価格弾力性が1よりも小さくなります。


 例えば、トイレットペーパーは、価格が半分になっても、倍の消費はしません。


 そのような商品で、価格競争をした場合、圧倒的な価格を提示した企業は、他社の市場を取り、売上が増えます。
 しかし、業界全体の売り上げは減少します。


 そのため、スーパーの価格競争は、スーパー業界全体で見た場合、売上の減少となります。


【嗜好品】
 対して、生活必需品ではない、旅行や外食などの嗜好品は、価格弾力性が1よりも多くなります。
 価格を安くすれば、旅行をする人や外食する人が増え、市場規模が大きくなります。


【バスや鉄道の運賃】
 バスや鉄道は価格を下げることにより、売上が上がる産業なのでしょうか?
 それとも下がる産業なのでしょうか?


 通勤通学の立場で見れば、必需品です。
 出張の立場から見ても、必需品です。
 旅行客の立場から見れば、嗜好品です。


 そのため、単純に考えますと、
 価格を下げても、通勤通学客、出張客は対して増えません。
 対して、旅行客・買い物客の増加は期待できます。


 その一方で、中長期的に考えた場合、通勤・通学費も単純に必需品とは言えません。
 あまりにも通勤・通学費がかかる場合は、
①自家用車を使うなど交通手段を変える。
②そもそも移動しない(身近な職場や学校)。
③住む場所を変える(引っ越し、寮生活)。
④その場所に住もうとしない(住居の選択)
 などの選択肢があります。


 交通・鉄道は、利用者の立場により、振る舞いが大きく変わるので厄介です。
 やってみないと判らず、非常に見分けるのは難しい産業です。


【短期的弾力性と長期的弾力性】
 アクアラインや100円バスなどを見ますと、価格弾力性は、1以下です。0.8ぐらいでしょうか。
 つまり、価格を下げると売上が下がります。
価格を上げると、売上が上がります。
 つまり、売上を上げたいローカル線にとって、価格を上げることにより売上が上がります。

 しかし、それは、単年度の効果です。
 値下げした場合は、2年目、3年目は、1年目よりも、利用者数が増えて、中長期的には売上の増加、価格弾力性が1以上になる場合があります。
 ただし、確実にそうなるわけではないが難しいところです。


 短期的には1以下、中長期的に弾力性が1以上になるということは、逆に、値上げした場合、1年目は売上が上がるけど、数年後には、値上げ前よりも売上ダウンを起こすことを意味します。


 そして、値上げを繰り返しますと、値上げの悪循環の完成です。


【ローカル線】
 利用者に車をつかえない学生や高齢者が多く、地域の必需品という意見がありますが・・・
 必需品ゆえに、価格が高くても、それを利用せざるえない。そのため、多少価格が高くても利用してもらえる。
 また、必需品ゆえに、多少値段が安くなっても(すぐには)利用者数が増えないという悪循環が。


 嗜好品として乗る、観光客や買い物客をどれ程取り込めるかが、重要なのでしょうが・・・・これは、個々の路線の環境次第ですね。難しい話です。


ニュータウン線の場合】
 値段を高くした場合、短期的には売上がありますが、街が発展しなくなり、中長期的には需要の停滞をもたらします。
 その典型例が、北総線など新しく出来た路線ですね。

 あまりにもかかる通勤費を恐れ、そもそも、その場に住まないという選択肢を取るわけです。

 逆に、北総線などを判明教師としてより、北総線などより運賃を安めにして、計画以上に大成功したのがツクバエキスプレスですね。


【損して得取れが出来ない役人やサラリーマン】
 損して得取れと言うのは、言うのは簡単ですが、経営的には非常に決断力が居る行為です。
 そのため、1年、2年、3年、赤字を覚悟して良いという経営を行うのは非常に困難です。
 そもそも、ローカル線の場合、黒字にすることは困難ですが。


 役人の場合、自分の担当する数年さえよければいいので、
 目先の1年、2年の売上を取りに行くため、値上げを断行します。


 そして、短期的には売上があがり、経営が上向きましたという訳です。中長期的には、売上減少になりますが、それは自分の問題ではないのです。それは次の人の問題なのです。
 そして、次の人も、短期的な改善をめざし、値上げします。
 この繰り返しです。


 結果、自家用車やバスに利用者が流出する一方で、価格は高値となります。


 そのため、ローカル線はただでさえ経営が苦しいのに、本来の需要以上に大幅に早く経営が悪化します


【まとめ】
 なぜローカル線は運賃が高いのでしょうか。
 それは、短期的には、価格弾力性が1以下なので、価格を上げることにより一時的に業績が改善するためです。