東方プロジェクト、上海アリス幻楽団で考える商標登録とは

 ゲーム・オタクの世界では、上海アリス幻楽団が作成した東方プロジェクトと総称される有名な商品群があります。


 だいぶ前の話になりますが、「上海アリス幻楽団」「東方プロジェクト」という言葉が、製作者、ZUN氏とは無関係な人が商標登録して、商標を得ることになりました。
 ZUN氏は異議申し立てを行いましたが、12年5月頃、最終的に特許庁によって却下されました。

 http://www1.ipdl.inpit.go.jp/JJ0/htmldata/H/2/3/_/9/0/0/4/423900420_001.html?1346048153

3 当審の判断
(1)「東方Project」と「上海アリス幻樂団」について
ウィキペディアフリー百科事典」によれば、「東方Project」の文字は、同人サークル「上海アリス幻樂団」によって制作された弾幕シューティングゲームを中心としたゲーム、音楽、書籍などの作品群の総称であること及び「上海アリス幻樂団」の文字は、同人ゲーム・同人音楽を制作している日本の同人サークルの名称であって、ZUN(ずん)一人で運営されており、ZUNの本名と申立人が一致していることが認められる(甲2及び甲3)。
 そして、「上海アリス幻樂団」は、ZUN、すなわち、申立人とみて差し支えないというべきである。
(2)著名性について 
 申立人は、「東方プロジェクト」の文字が、同人サークル「上海アリス幻樂団」の制作に係る「東方プロジェクト」の作品群について使用する商標として著名である旨主張して、甲第5号証ないし7号証を提出している。
 しかしながら、同人サークル「上海アリス幻樂団」の制作に係る「東方プロジェクト」の作品群として挙げるゲーム、音楽、漫画等(甲5)には、「東方幻想郷」「東方萃夢想」等、「東方」の文字を冠した「東方○○」の文字の記載があり、その中の一部に「東方プロジェクト」あるいは「東方Project」の文字が散見されるとしても、当該文字が、個々の商品の出所を表示する商標として使用しているものとは認められない。
 また、インターネット検索サイトにおいて、「上海アリス幻楽団」の「東方プロジェクト」に関するサイトが相当数ヒットし(甲6)、さらに、「東方プロジェクト」関連のイベントも実施されていること(甲7)はうかがえる。
 しかしながら、これらからは、上記同様に、「東方プロジェクト」あるいは「東方Project」の文字が散見されるとしても、当該文字が、個々の商品の出所を表示する商標として使用しているものとは認められない。
 その他、提出された証拠からは、「東方プロジェクト」の文字が、「上海アリス幻楽団」あるいは申立人に係るゲーム、音楽、漫画等の商品について使用する商標として、需要者の間に広く認識されていることを示すものは見当たらない。
 そうとすると、「東方プロジェクト」の文字からなる本件商標は、本件商標の登録出願時において、「上海アリス幻樂団」あるいは申立人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標とは認められない。
(3)申立人の主な主張について
 申立人は、「東方プロジェクトの作品を便宜的に『東方シリーズ』と称することもある。」とか「『東方・・』と記載された作品は、『東方プロジェクト』に関連する『東方シリーズ』である。」ことを前提に、「東方プロジェクト」がゲーム等に使用する著名な商標である旨主張するところ、「東方プロジェクト」の文字は、前記したとおり、ゲーム、音楽、漫画等の作品を総称する語であって、個々の作品には、「東方○○」の記載がされ「東方プロジェクト」の文字を商標として使用しているものではないから、係る申立人の主張は採用することはできない。
(4)したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標に該当するものではないから、他の要件に言及するまでもなく、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(5)結論
 以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第19号の規定に違反してされたと認められないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

        平成24年 5月14日

     審判長  特許庁審判官 小林 由美子
          特許庁審判官 鈴木 修
          特許庁審判官 小川 きみえ

商標法第4条第1項第19号の規定に違反していないと書かれていますが。
19号規定とはようするに、登録されていなくても、他人が使っている有名な商標を登録できないと言っているわけです。

19.他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)

 しかしながら、東方プロジェクト自身は有名ですが、東方プロジェクトという言葉は「総称する語であって、商標として使ってないじゃない」、商標じゃないから、19号は適用しないよという話です。


 まぁ、なんというか、難しい話です。

 創作の世界、同人の世界では、東方プロジェクトと言えば、ZUN氏が作成した作品やそれを基にした作品群を刺すわけですね。
 また、上海アリス幻楽団と言えば、ZUN氏の組織を刺すわけですが・・・・

 商標の定義は以下の通り。

(定義等)
第2条 この法律で「商標」とは、文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
1.業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
2.業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)

 商標を満たしているか満たしていないか微妙な感じです。
 特に、東方プロジェクトの場合は、2次創作を積極的に認めていますので、権利関係が曖昧複雑ですし・・・・


 しかし、消費者としては、ZUNE氏と全く関係ない人が「上海アリス幻楽団」「東方プロジェクト」を使って良いとなると、混乱しそうな気がするけど・・・


【現状の使い方は、商標にならないので、そもそも商標侵害にならない可能性が高い】
 現状の使い方は、商標として使っていないと言っている以上、
 それを使っても、問題になる可能性は高い。
 ので、それほど大きな影響はないかもしれない。


【対抗手段は、不正競争防止法
 これはかなり広範囲な法律です。
 ズルして儲けることを禁止している法律ですので、今回のように、ズルして儲けようとする人の活動を抑えるためにはもってこいの法律です。

 しかし、この法律には、商標登録を無効にする力はありません。それはそれですので。


【審判と言う茶番な制度】
 裁判長、裁判官ではなく、審判長、審判官という名称が使われているのが判りますでしょうか。
 審判と言うのは、第三者の裁判官が行う裁判ではなく、商標登録を認めた特許庁の人間が、行う裁判みたいなものなんです。


 異議申し立てを認めると言うことは、特許庁の判断は間違っていましたと特許庁の人間が認めるわけです。
 
 基本的に、役人は自分たちはプロであり、専門家であるという自負がありますので、
 自分の判断が間違っていることを認めることはなかなかありません。
 
 そのため、審判はだいたい役所は正しい。つまり、異議申し立て却下となります。

 対して、裁判所は特許庁とは別の組織です。
 裁判官が、新しい判断、判例を出す可能性がないわけではないと思います。
 ある意味、本当の戦いはこれからと言えるかもしれません。