なぜイギリスで産業革命が起きたのか? 〜おもちゃと企業家が大事

 18世紀後半(1750年以降あたり)からイギリスで産業革命が始まりましたが、なぜイギリスだったのでしょうか?
 なぜ、中国、フランス、イタリアなどはダメだったのでしょうか?


【産業条件】
①材料
②市場
③科学技術
 ・近代合理主義
 ・科学知識
④人材
⑤社会・組織
⑥研究開発資金

①と②だけならば、鉄・石炭など材料があるインド・中国・ロシアでもOKなはずです。
 今も昔も、インド・中国は、とんでもない人口大国でした。そのため、市場規模は満たしているはずです。
 単純に植民地の規模なら、当時スペインやハプスブルグ家でも良いはずです。


 そもそも、イギリスがインド帝国を建国したのは1858年。アヘン戦争は、1840年。ある程度に植民地化は、それ以前に進んでいたとはいえ、なぜ人口で劣勢のイギリスが、インドを植民地化して、中国に戦争で勝てるのか?
 それは、既に産業革命・技術革命が起きていたからであって、順序が逆に感じてしまいます。


 そもそも、良く資本、労働力、資源、市場(植民地)などと言われますが、そこには人間の精神活動に対する考察がない。
(これは経済学・マルクス主義の悪影響でしょう)


 現在では、会社を構成する要素として、人、モノ、金、技術が4大要素として挙げられます。
 特に人の重要性が挙げられます。


 社会に資本(かね)さえあれば、科学技術は発達するのでしょうか?


 お金が発明をするわけではない。 
 市場が発明をするわけではない。


 発明をし、発明をビジネスにするのは人間です。
 優れた発明家、お金を出す人、発明を産業化・ビジネスにする人。これらがいないとうまく行かない。
 これは現在でも、技術系ベンチャー企業の基本。
 現在の日本は、社会にお金あり、企業家などの人材が居て、技術があっても、それらを組み合わせないので、アメリカ程技術系ベンチャーが盛んではありません。


 中国など大国には③④⑤⑥で問題がありました。


 中世の社会は、身分社会です。
 能力が優れた人でも、重要な地位に、能力が十分発揮できる地位につけるとは限りません。
 才能がある人でも、才能を開発されない場合があります。
 人口が多くても、才能開発され・活用される場がなければ、無駄になるだけです。

 イギリスなどは、市民革命により、まだ人材の開発・活用される場があったと言えます。


 産業革命は、科学技術の進歩とその産業化、その背後にいる人に着目しなくて理解は難しいと思います。


【近代合理主義と科学技術】
 物理や機械に関する知識なしに、機械を作成・運用するのは困難です。
 18世紀後半(1750年以降あたり)の産業革命前に。
 ニュートンが生まれてイギリスで大活躍します(1642年12月25日 - 1727年3月20日)。


 発明は簡単にできるものではありません。
 かならず障害が発生します。それを地道に解決するのですが・・・・
 科学知識・合理的思考なくては、その解決は容易ではありません。

 問題解決できるか、できないか? その速さは、科学的知識と合理的思考で決まります。

 科学知識・合理的思考がある地域は、玉突き的に、科学的知識が増え、科学的知識も発展しますが、科学知識・合理的思考がない地域は、ボトルネックにはまりなかなか前進しません。
 科学的知識を共有する大学の存在も重要です。
 ギルド・職人さんは、知識・技術を共有せず、一子相伝・秘儀・秘訣ということで隠してしまいますので。


 イギリスは、イスラム錬金術ルネサンスなどの結果を取り入れ、大学などで発展させ、当時、科学技術に関しては先進的な地域にありました。
 そして、超天才のニュートンの登場です。物理学を整理して、数学・物理学を大きく進歩させました。そして、多くの科学者・技術者は、それらを用いて、技術・科学を進歩させました。

 
【人材と科学技術】
 蒸気機関の発展(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%92%B8%E6%B0%97%E6%A9%9F%E9%96%A2)を見ますと・・・

 ドニ・パパンの登場が大きな転機になっています。

・ドニ・パパンの真空エンジン 1695年
 フランス人の物理学者だけどイギリスに亡命。・セイヴァリの熱機関
・ニューコメンの蒸気機関
・ワットの蒸気機関
 となります。

 ドニ・パパンの亡命がなければ、フランスで蒸気機関が進歩したかもしれませんが・・・フランスは大損した訳です。
 科学技術の世界では、科学者・技術の移動が大きな意味を持ちます。
 ドイツのロケット・ジェット機の技術が、戦後、アメリカ・ソ連に流れたは有名な話です。それにより、世界一の航空宇宙の国になりました。
 アメリカが世界中から優秀な科学者を集めているのも有名な話。それにより、アメリカは世界一の化学大国の地位にいます。
 日本の技術者が韓国・中国・台湾に流れているのも有名な話です。その結果、急速に彼らが力を付けて追い込まれています。


【開発資金源 おもちゃをバカにしてはいけない】
 資金も重要です。研究開発資金がないと開発できません。
 ライト兄弟は、政府の支援で飛行機を開発したわけではありません。個人のお金です。ほぼ趣味です。


 企業の研究所(?)という組織自体、エジソンの登場まで待たないといけません。
 今の感覚では、信じられませんが、産業革命前の昔の国家というのは、科学技術の研究開発支援というのをほとんどやっていません。
 例外なのは戦争の兵器開発ぐらいなものです(戦争で技術が大幅に向上した理由です)。


 発明は、最初おもちゃみたいなものです。
 それらを地道に、発展させる必要があります。
 「そんなおもちゃ何の役に立つの、役に立たない無駄無駄」の世界では、発展しません。


 今でも、イギリス・アメリカでは、個人の発明家がバカ発明をします。
 あと、カーレースなどの大会も盛んですね。
 こういうのが、発明のバックボーンになります。

 自動車なども、「貴族のおもちゃ」から、巨大産業になるわけですし。
 70年代、パソコン(当時はマイコンと言う人も居ました)を見た、大手コンピュータ会社の人たちは、パソコンを「おもちゃ」と言いました。
 実際、当初の需要の大半は、趣味向けでした。大人の高価なおもちゃの世界です。
 しかし、わずか数年後、アップルが誕生して、ビジネスとして大成功します。


 大規模なものはパトロンがないと駄目ですね。
 貴族・富豪の趣味でお金を出してくれる人も居ます。科学趣味・機械大好きの貴族・富豪が居るほど、社会が成熟していないといけません。 
 発明家の多くは、パトロンにおもちゃを提供して、日々の活動費を稼いでいた訳です。

 ある程度、発展しきますと、産業化の話になります。

 産業として、インパクトを与えないと、研究開発予算が増えないので、産業化は重要です。
・セイヴァリの熱機関
・ニューコメンの蒸気機関
 は、炭鉱における排水機械としてニーズ(市場)がありました。

 その後、ワットの登場により、いろいろと使われるわけです。
 液晶で言うと、計算機→ノートパソコン→テレビと拡大しているのと似ています。
 巨大でなくても、社会に必要だと認知される、市場と産業化は重要なんですね。


【技術とビジネスを結びつける人材】
 ある時は、投資家ですし、ある時は企業家、ある時は発明家自身です。
 発明家が発明するだけでは、社会は変わりません。それらの発明を商品にする人材、利用する人材が必要です。
 効率の良い織物機械を発明しても、商品として世の中に出なければ、社会に影響力を与えられません。また、買ってくれる消費者なり企業家がないと駄目です。


 現在でも新製品を出す場合、消費者に受けるとは限りません。また、企業がその価値を理解できるとは限りません。革新的なものほど理解されません。


 当時のイギリスには、発明を商品化して儲けようとする理解があるビジネスマンと、それを使って儲けようとする理解があるビジネスマンが居たわけです。
 いつの時代にも、王だったり、貴族だったりお金持ちは居ます。
 しかし、彼らは宮殿や贅沢に熱心であり、そちらにお金を大量に使います。
 お金が大量にあるに越したことがありませんが、産業に流れなければ意味がありません。



【資源】
 資源も重要です。
 発明するだけなら、低資源でもできますが、産業として社会にインパクトを与えるためには、資源が必要です。特に資源がないと重工業は難しいですね。


 フランス・イタリアは致命的なほど、石炭や良質な鉄鉱石が不足していました。


 アメリカが石炭や良質な鉄鉱石により、あっというまに発展したのとは対照的です。


 イギリスは、国土の面積こそ大きくありませんでしたが、石炭も鉄鋼石もあり、ある種非常に条件が整っていました。